待っていました。待った甲斐がありました。
アルバム完成おめでとうございます。
サ・ス・ガ!
小山田圭吾(Cornelius)



心を揺らされると同時に、静かに、だが確かな実感を得られる音の峰筋。
叙情には色香があり、倦怠には前向きさがあり、サウンド・デザインは一級である。
瀧見憲司(Crue-L Records)



 うちのCDJの設定は、たいてい「Auto cue」になってます。
これは、1曲ごとに勝手に一時停止がかかってしまうシステム。
DJという職業柄、そちらのほうが安全だからなのですが。そんな環境で聴いてしまったので思ったのですが、
リスナーのみなさん! 音楽配信による「1曲単位での購入」はやめておいたほうがいいですよ。
曲間を楽しみ、選曲のドラマ、ジャズ〜ソフトロック〜音響のバランスの妙を感じ、
ジャケットも含めての総合芸術を楽しまずしては、このCDの素晴らしさは味わえません。
売らんがため、1曲だけに予算を裂き、リード曲のみに力を入れる時代はもう終わりにしましょう。
そんな意味合いがこのアルバムには込められている気がするくらい、
よく練られたトータル・アルバムだと思いました。 待ちに待った作品です。
須永辰緒(Sunaga t Experience)



 カフェでかかっていて欲しい雰囲気のよさのなかにある、この居心地の悪さはなんだろう……と思い出せば、
あとに夢中になったクレプスキュールのコンピやチェリーレッドの初期の作品を、はじめて聴いた時の戸惑いと同じだよ、これは。
 世の中、雰囲気だけや脅迫だけの音楽ばかりだけど、このCDはドキドキするなあ。
仲真史(Escalator Records)




ブリティッシュ・フォーク/トラッド〜ジャズの深い迷宮を彷徨いながらも仏SARAVAHのアヴァンギャルドを思わせるフレンチ・ジャズ。
この儚げで乾いた美しい叙情風景には、音楽を深く愛するが故の夢見が交錯し、 そして、緻密に構築すればするほどに磨きのかかる、
1曲分で10曲は作れるだろう! というぐらいに贅沢なコード進行と楽器間のハーモニー〜
心のナイーヴ部分を、もうやめてください! とばかりに刺激する絶品の美メロが渦巻いている。
発売と同時にヨーロピアン・ジャズ・ヴォーカルのメガレア廃盤級の音と匂いのする、
しかし廃盤屋では幾ら払っても絶対見つからない、美しすぎるアルバム!
武田誠(Apres-midi Selecao)







2007.10.10 on SALE!
yoga'n'ants / Bethlehem, We are on our own
(たぶん)初回限定・美麗紙ジャケット仕様
税込価格¥2,940 品番:DDCT-4001
予約は商品ページからお願いします。



解散から7年を経て海外レーベルによるコンピレーション・アルバムが企画されるなど、
いまやレジェンダリーなElectro Punk Group、シトラスを率い UK IndieやTrattoria/Polystarより10数枚のシングルを残していた
ソングライターの江森丈晃と、Pharoah Sandersなどのジャズ・オリジンやKyoto Jazz Massiveらダンス・クロスオーバー系、
さらにはフル・オーケストラまでの魅力を引き出す気鋭のエンジニア/プロデューサー、渡辺正人を中心とした不定形ユニット。
鬼怒無月、青柳誠、高井康生、鹿島達也、加藤雄一郎、武嶋聡らトップ・ミュージシャンと、
すべての歌唱/作詞を担当する仏人女性ヴォーカリストSublimeを迎えた本作
『Bethlehem, We Are On Our Own』は、ヨーロピアン・ジャズやカンタベリー・ロックを基調に、
室内楽、ギターポップ、ノイズ、ミュージック・コンクレートなどの要素を呑み込み、
それでいてヴォーカル・オリエンテッドな結びを聴かせる、非常にメロディアスかつ先鋭的かつ普遍的な内容。

1. Pickering 625DJ, Organdy
2. a Lausanne
3. Tissus dans le vent
4. Bagatelle no.5 opus 126 (Ludwig van Beethoven)
5. Pas touche!
6. Les marimbas
7. Calin calin
8. Haut la-haut
9. Purple Stratospheres
10. L'encehale qui danse
11. Quelle ville en somme
12. Une comptine
13. Descendez de la
14. MEDLEY :
It Never Entered My Mind (Richard Rodgers / Lorenz Hart)
Last Train Home (Pat Metheny)
15. Metier [Demo Version]

http://www.myspace.com/yoganants ←試聴はMY SPACEから!





yoga'n'ants PROFILE

江森丈晃

(えもりたけあき)

ミュージシャン/グラフィック・デザイナー/ライター/編集者(順不同・日替わり)。
ソニーマガジンズ〜宝島社での丁稚時代を経て、98年、デザイン事務所+インディペンデント・レーベル、
TONE TWILIGHT(トーン・トワイライト)をスタート。CDジャケット、アパレル、エディトリアル、編集業を含む装丁、少々のwebなどを手がけ現在に至る。
また、90年代初頭から中盤まで活動していたシトラスというバンドのメンバーでもあったため、リミックスや楽曲提供など、ミュージシャンとしても暗躍。
ヨーガンアンツでは(カヴァー曲を除く)すべての作曲とアレンジを担当し、これがキャリア初のフル・アルバムとなる。

渡辺正人
(わたなべまさと)
神戸大学中退後、レコーディング・エンジニアに憧れ上京。日本でのスタジオ・ワークを経験後、単身渡米。
Jam&Lewisのプロダクション・スタジオでさらなる修行を積み、本格的なキャリアをスタートさせる。
手がけた作品は、PHAROAH SANDERS with SLEEP WALKER 『The Voyage』、KYOTO JAZZ MASSIVE『RE:KJM』、ゴスペラーズ「Dance If You Want」、
EGO WRAPPIN'『Midnight Dejavu〜』など多岐に渡り、50〜70年代の豊かなリズム・サウンドへの執着、
80年代の過剰さ〜00年代のカオティックな音像などを貪欲に取り入れたそのサウンドは、
アーティスト、ミュージシャンからもつねに絶賛されている。
ヨーガンアンツではすべての録音とミックス、エディットを担当。
共同プロデューサーとして、15曲全曲のデモ段階から参加している。

SUBLIME
(スブリーム)

南仏産まれ〜日本在住のフランス人ヴォーカリスト。1978年にキャバレー・アーティストとしてキャリアをスタート。
日本国内ではTV CMのフィールドでの活動が有名(とくにトヨタLEXUSのCMオリジナル曲"Virtuose"は話題となった)だが、
世界的なアコーディオン奏者cobaとの『Chanter coba』や三宅純作品への参加でも高い評価を得ている。
ヨーガンアンツではすべての作詞と歌唱を担当。大の猫好き。




『Bethlehem, We are on our own』全曲解説




1. Pickering 625DJ, Organdy

 Mongo Jerryの古い7インチにPickering 625DJを落とした際のニードル・ノイズと、
豪雨や粉雪のイメージを助けるハーシュ・ノイズにて構築されたサウンド・オブ・ウォールに、
ウィンドチャイムのピッチ変換によるパーティクル効果を加えた"雑音"を除いては、すべてサンプリング素材のレイヤーよるイントロダクション。
 特別にマイナーな盤は使っておらず、そこにはChristian Marclay〜Readymade的な廃物芸術性を感じて欲しいと思うが、
それら素材の理想的な並走は、エンジニア渡辺正人の面目躍如。
これはボリューム調整のためのリファレンス・トラックでもあり、
緩急激しい展開には、昼間に貴方や貴女が聴いていたLily AllenやSpace Cowboyや全力少年や推定少女を、
向こう42分間は忘れてもらいたい=耳を洗ってもらいたいという、少し黒めの意図までが含まれている。

〈渡辺MEMO〉
生音のレコーディングはともかく、エディットやミックスの最中は、
いったい自分がなにを作っているのかわからなくなることがよくあった。
新しいサンプルが入るたび、その音につられ、次第に原案のイメージからアウトしていくのに身を任せるかのような、
マゾヒズムを内包した気持ちよさ。このトラックはとくにその快感が強かった。




2. a Lausanne

(結局は条件にあうメジャー・カンパニーが見つからずにtone twilightからのリリースとなったのだが)
まだアルバムの発売元を探している際のデモCDRではラストに置かれていた、ルーラルなフォーク〜SSW的作品。
最終的には『Bethlehem〜』のムードを決定づけるものとして(実質上の)1曲目に抜擢された。
 サビよりもサビなフルートの演奏はEgo-Wrappin'のバンド・アレンジなどをこなす才人、武嶋聡によるもの。
冒頭に聴こえる鳥の鳴き声は、音場に馴染まず作為的に聴こえてしまうであろ
うFolkways盤などからのサンプリングを避け、You Tubeから探したもの。

〈渡辺MEMO〉
「Pas touche!」「Les marimbas」 とともに、自分たちにとってはかなり重要な曲。
このアルバムは外部スタジオを含め、6回もマスタリングをやり直してるんやけど、
それはアルバム流れのなかでのこの曲の聴こえかたにこだわったためでもある。超思い入れあり。




3. Tissus dans le vent

『Bethlehem〜』の楽曲は『Bethlehem〜』のために書かれたものだが、この曲に限っては97年に書いた曲。
もう手放してしまったためタイトルが思い出せないのだけど、短い平歌があり、
その後は「Love with You」というサビだけが延々と繰り返される
Teenage Funclubというバンドの12インチにインスパイアされ、
その構造のみをネタにした記憶がうっすらとある。
つい最近、Miles Davis「Nefertiti」との微かな共通点を指摘されもしましたが、
そこまで高尚なものではありません(し、もしそうであってもそうとは言えません)。
 ブリッジとなるギター・ブレイクを挟み、徐々に楽器が増えてゆく構成は、
スタジオ地下の大部屋に総勢20名のミュージシャンを集め録音された……わけでは勿論なく、
簡素なコード弾きのループをバックに備蓄された数人のミュージシャンのアドリブから、渡辺正人入魂のエディット芸により組まれたもの。
江森の"ふた回し目にストリングスだけのパートを置き、いちど落としたい"という妙案などもジョイントしつつ、
もっとも効果的かつカンタベリー的な上昇方法を探るべく、ついには紙やペンや乱数表までが登場する大手術であった。

 また、これも「a Lausanne」と同じく終盤のフェアウェル・トラックになるはずだったが、
アルバムの未整理/未完成な感覚を強調すべく、序盤に置くことにした。




4. Bagatelle no.5 opus 126

 Ludwig van Beethovenによるピアノ・ソナタの、ギターによる名演。
しかしこれは、yoga'n'antsの作品ではなく、Ahh! Folly Jet高井康生によるソロ作品として聴かれるべき1曲。
 江森からのオーダーは「Sandy BullのVanguard盤『Inventions』で聴けるバッハのテイク1と2を繋げたようなもの、
つまりはアシッド・フォークの解釈でのクラシックを、できればフィールド・レコーディングとアンプリファイしたものの
両方で欲しい」というアウトラインのみで、ギターのための編曲はもちろん、選曲もが高井によるもの。
その演奏の揺れは絶妙で、これもまたアルバムの風通しやアマチュアリズムに貢献するための
インタールードになるはずが、期せずして序盤のハイライト・トラックとなってしまった。
 前半アコースティック・パートの録音は、スタジオの上階・踊り場まで、
長い長いケーブルを這わせてのもの。渡辺は建物の外の夜の音(ね)を、
できるだけブルーなままに録り込むべく、マイクを変えたり
窓を開けたり閉めたりと、とても微妙な音作りをしていた。

〈渡辺MEMO〉
アイデアと曲、そしてプレイのよさ。そこに暗騒音をいかに封じ込めるか。
理想的には前半中盤あたりから、スタジオの前を12tトラックが
時速20kmぐらいで走ってくれるとよかったなあ。ノイズ的に。




5. Pas touche!

 最初期に取りかかったトラックにもかかわらず、最後の最後の最後まで手直しがあった、(身内的には)最難関の曲。
主幹となるコード楽器の抜き差しや、生演奏とサンプリングが挑発しあい吹き荒れるボトムのバランスを巡る
アザー・ミックスは軽く10テイクを超え、渡辺の感覚も完全に麻痺アンド壊死。
そんな状況をなんとか打破すべく、珍しく江森もドラムのテイクをミックスしたりしたものの、
結局のところ、どのミックスが採用されたのかは覚えていない。
それほどに難航してしまった作業だったが、その甲斐あって、アルバム全15曲の中でも
もっともキャッチーな1曲となり、世間的にもリード・チューンとして聴かれるはずの楽曲として結晶した。
 終盤のホーン・アレンジはアルバム『Pouring』や曽我部恵一バンドでの勇姿でも知られる加藤雄一郎によるもの。
中盤のサックス・ソロも加藤によるものだが、当時の彼には第一子が産まれたばかりで、
切なくも嬉々とした、ある種の全能感すらを感じさせるプレイが聴ける。

〈渡辺MEMO〉
手のかかる子ほど可愛いというが、この曲はもうそれを遥か昔に通りすぎて、
呆れるぐらいにいろんな世界を見せてくれた。
ひとつ音が増えては、みっつ音を消すという、修行にも似た作業となり、
ミックスにおいても、最後の最後まで落とせなかった。落とさせてくれなかった。
……トータル140トラック以上を使用し、5年を費やした結果、悟りは開けたのか?




6. Les marimbas

 ショーロの疾走感をチェレステの湿気が抑えるという異教的なアレンジ/楽器編成からも聴けるよう、
伝統音楽への愛憎が激しく入り乱れる複雑怪奇なマッド・チューン。このトラックも武嶋聡のフルートが大活躍。
渋谷109で買ったという着け爪を磨り減らしつつのギター・ソロは鬼怒無月。まさに言葉を奪う圧倒的なフレージング。
 アヴァンギャルドなイントロ〜ポリリズミックなAメロと続く序盤は、
試聴ファイル世代のリスナーにはスルーされてしまうかもしれないが、
そこからサビへと抜ける展開には、ポップ・ミュージックの旨味が前に出る。
江森個人的にも、この曲こそがyoga'n'antsというグループの音楽性を
もっとも端的に伝えるトラックだと思っている。

〈渡辺MEMO〉
6/8拍子というグリッドのなかで、どれだけ踊れないのに踊れそうだと錯覚させるグルーヴを出せるかどうかの闇雲なチャレンジ。




7. Calin calin

 通称「シングル」と呼ばれていた入魂のメロディではあったが、
学生ジャズ的な演奏とアコーディオンの絡みを主体とした、
比較的オーセンティックなアレンジに落ち着いた楽曲。
アコーディオンはDaniel Mille御大に師事していたという経歴を持つ佐藤芳明。
珍しい楽器を前に、できれば数テイクを聴きたい江森・渡辺の要望を打ち砕く、佐藤の発言が印象的。
「たぶん何度やっても変わらないと思います」。
事実、最高のプレイであった。




8. Haut la-haut

 Sir Paul McCartney「Junk」を意識したスロウ・チューン。
作曲時にはあまりにも暗すぎるかと心配していたが、意外にも好意的な評判を集め
(勿論マッカートニーには及ばないものの)江森自身の"歩きながら口づさみ度"も、もっとも高い曲。
できる限り柔和なトーンを求めたため、サックスの朝顔管にはたくさんの布切れを詰めさせてもらった。
 序盤/中盤/終盤と、しっかりカラー展開された構成〜演奏の魅力を100%に引き出した、
渡辺のハイ・コントラストなミックス・ワークにも注目して欲しい。




9. Purple Stratospheres

 "南仏はニースにあるヴォーカルSublimeの旧家のチェストから発見された
古いカセット・テープに入っていた30年以上も前のホーム・パーティでの演奏を
渡辺がマスタリングしたもの" ……というコンセプトのもとに新録されたインタールード。
 曲名の直訳は「紫の成層圏」となり、漢字であるとどことなくDeep Purpleを連想させてしまうのだけど、
イメージ的には戦前ジャズ〜宇宙開拓時代のナイト・キャップ・チューンというか、
Willie Nelsonが歌った「Stardust」というか、ともかくはそういった設定づけがなされた小品。
 宇宙観の表現としてはテレミンの演奏や交信記録のナレーションをダビングするのが
もっとも簡単な方法だと思うが、この曲に限らず、yoga'n'antsの音楽には、
そういった記号的サウンドを嫌い、憎み、意図的に排したようなところがある。
 ちなみにここまでの全曲がワルツ・タイム。

〈渡辺MEMO〉
最先端の機材を使い、昔の音源のように仕上げる。これが21世紀的な音楽の作り方。
やっぱカセットはハイポジがええですな。メタルはイカンです。




10. L'encehale qui danse

 Sir Paul McCartney「Rum On」を意識したシャッフル・チューン。
この曲の録音の数週間前、ボーカルのSublimeが交通事故に見舞われ入院。
TASCAMのカセットMTRを病室に持ち込み、ノートPCで走らせたデモCDRに合わせて
カラオケ・マイクで歌ってもらうという暴挙に出たのだが、
コンセントから流れ込む原因不明のノイズが酷く、退散。
渡辺の見解では、「窓から見えていた電波塔が原因」とのこと
(脳波の検知や生命維持に関わる 精密機器への影響は大丈夫なのだろうか……と心配になった)。
 ウクレレの演奏は録音当日に新宿まで買いに出たための練習不足に加え、先天的なリズム感の欠如が甚だしい江森によるものだが、
その不安定なリズムにマッカ風のラインをピッタリと沿わせてくれたベーシストは、キリンジや青山陽一作品を始め、
数々のセッション・ワークをこなす千ヶ崎学。そのリズム解析能力には心底驚かされた。
イントロ/アウトロのピアノは正田圭。彼にはスタジオ天井付近のアンビエンス・マイクを意識しつつ
灰皿や廃材を叩く"ノイズ・アンサンブル"にも参加してもらった。
 ……と書きながら、60年代に全編病室で録音されたロックのアルバムを
思い出そうとしているのだけど、どうしても出てこない。

〈渡辺MEMO〉
曲を聴いて、制作に入るとき、そこに自分的な縛りやルールみたいなものを決めることもある。
それはディレイを最低5台は使わなければいけないとか、制作中に『カムイ伝』全15巻を読み終えなければいけないとか。
この曲の場合は、マイクやエフェクターなど、楽器やレコーダを除く機材の時価を
5000円以下で制作するというコスト・パフォーマンスの部分に重点を置いてみた。




11. Quelle ville en somme

 ここからがエンディング・パート。
グッと温度を低くしたエレクトリック・アレンジによる寒色系の小品が2曲続く。
これは江森が考案していた"同じメロディを2度と繰り返さないのだけど、
しかしそれが難解な実験には聴こえることのない、1〜2分台のポップ・ミュージックが
大量に入ったアルバムにしたい"というアイデアの名残でもある。
メロディ的にS&GやK.O.C.のような全編ハモりのボーカル・アレンジにもトライしたかったが、
Sublimeの仏語詞はほとんどがパーソナルな一人称で書かれている(と予想する)ため、それは次作へのチャレンジとして放棄した。
 アルバム全編を覆うメロディの抑揚に比べて、本来あるべきコーラス・パートが異常に少ないのは、
江森・渡辺ともに、歌詞の内容までを理解する語学力がなかったためでもある。

〈渡辺MEMO〉
アルバム制作開始1年目に80%程度は完成していたが、その後2年くらいはほっておかれた曲。
欲しい音は揃っているような気がするんだけど、それでもなにか足りない……という、
アルバム全体を通しての底なしな選択肢に、浅ーく悩み続けた曲。
ストリングスに紛れて、5〜6本は自分ならではの隠しトラックを忍ばせてある。




12. Une comptine

 分数コードを多用しアルゼンチン〜ミナス系のAORサウンドにチャレンジした小品。
アルバムのなかでは比較的明確なサビを持つため、もっと長く聴きたいという意見も多かったものの、
その足りなさこそが "もういちどのプレイ・ボタン"を押させるのだと考え、そのままに。
1曲4分半の平均的J-POPを聴き終わるまでに、この曲であれば、続けて3回はリピードできる。
 曲が曲ならギャグにもならないTrevor Horn風のスネア・サウンドと、短いオブリガードの連結で
和音を作っていくエレクリトック・ギターのアンサンブルがこの曲の肝。
浮遊感が強くユラユラと安定しないメロディに、直線的なリズムが釘を刺す構造。




13. Descendez de la

 仏シャンソンの古いLPからのサンプリングから作業をスタートし、
それが映えるようにヴォーカル・パートを書き加えた半インストゥルメンタル・チューン。
M2「a Lausanne」や次曲のメドレーと並び、アルバム中、もっとも形而上世界への飛びが強いトラック、かと思う。
 中盤に登場するチャイルディッシュなピアノ・ソロはスタジオに置かれたアップライトの単音弾きをMPC2000XLにサンプリングし、
それを演奏し直したもの。終盤のクワイアやオーケストレーションはレコードからのサンプリング。
奇跡的なネタのハマりに小躍りするふたりであったが、その後しばらくは「人間交差点」を読みながら
意見するだけの江森とは対照的に、渡辺には、まさに地獄のエディット作業が待ち受けていたのであった……。




14. MEDLEY :
It Never Entered My Mind〜Last Train Home


 Ann Burton『Ballads & Burton』でのヴァージョンや
『Workin' with the Miles Davis Quintet』での名演で知られるRogers-Hartのスタンダードと、
原曲はインストゥルメンタルであるPat Methenyの87年名曲のヴォーカリーズによる疑似ライヴ・メドレー。
 思わず瞼(まぶた)の有り難みを感じてしまう絶品のピアノ演奏は(実はこのアルバムの裏番でもある)青柳誠によるもの。
録音がスタートして数分、中盤のソロをダブ化することを思いつき、急遽ソロは右手のみで演奏してもらいましたが、
それでもその優美な歌心はなんら変わらることがなく、トーキング・スタイルで入るSublimeのヴォーカルも非常にリラックスしたものとなっている。
ダブ・パートの中盤から登場するテレミンのような音は、グラフィック・デザイナー千原航によるミュージカル・ソウ(のこぎり)。

〈渡辺MEMO〉「Bagatelle no.5 opus 126」と同じくアイデアとプレイの力が95%。
ピアノはほぼ即興。この6分間、青柳氏には、ほんまに後光が射してました。




15. Metier [Demo Version]

 江森のギターと単音ピアノ弾きによる未発表曲のデモ・ヴァージョン。
 自宅に録音機材のない江森の怠慢もあり、このアルバムに収録された楽曲は、
すべてデモ制作の段階から渡辺正人により録られたものだが、
これはレコーディングの最終日までなんの楽器を重ねることもなく、
そのままになっていた数曲のうちの1曲。
「これに関してはデモでも聴ける」という渡辺の判断にて収録した。


(以上、楽曲の発音記号と敬称略)